2019年9月10日火曜日

これも鉄道です

今更ながら鉄道とは

 「電車好きなんですね」とよく言われるが、「いいえ」と答えると不思議な顔をされる。世間の人にとって鉄道=電車なのだから仕方ないとは思いつつも、それをさらっと受け流せないのは、 通勤電車を始めとして、いわゆる都市近郊の電車に心ときめかない鉄道愛好家としてのささやかなこだわりなのだろう。
 実際乗って楽しいのは、機関車に牽引される客車列車であったり、電化されてない路線を走るディーゼルカーであったりする。楽しみを求め、更に日本の鉄道全線を乗り尽くそうとすると、こんな鉄道もあるのかと、驚くことも多々ある。

 身近なところから言えばモノレール。首都圏で暮らす人なら羽田空港を利用する際に乗る人も多いだろう。駅では「間もなく電車が参ります」とアナウンスするくらい、歴とした電車。二本の鉄路でなくても電気で走るから電車なのだという理屈なのだろうが、よくよく考えると、そもそもモノレールの走る道は鉄道なのかと突っ込みたくなる。あれはどう見てもコンクリート道だし。

 鉄道はrailway,railroadを訳したものだ。そもそもrailに鉄の意味など全くない。牧場の柵などの横棒であったり、カーテンレールであったり、長いガイドウェイのことである。だから線路の方が正確な翻訳に近いが、そこを敢えて鉄道とした先人の語感の鋭さには舌を巻く。馬車すらなく、ろくな道の無かった日本に、鉄製の道さえ敷けば、大量輸送機関が完成したのだから、その感動を名前に生かしたのだろう。舗装道路よりも先に鉄道が発達したために、ローカル線が今に残るわけだが、それはまた別の話。

 とにかく、鉄道は鉄の道である必要はない。線路さえあれば良いという話だ。

乗り尽くしの旅で出会った Railway達 
<トロリーバス>

トロリーバス時代の扇沢 2016年
最近めっきりみかけなくなったトロリーバス。見掛けは自動車そのものだが、架線から離れては動けないので鉄道だ。写真は立山黒部アルペンルートの関電トンネルのものだが、今年からはバッテリー駆動の電気自動車になり、扇沢で急速充電する時以外は、架線から解放された結果、鉄道ではなくなってしまった。つまり、鉄道愛好家からすれば廃線。私の乗車記録も6.1キロ減ってしまったことになる。
 従って現存するトロリーバスは、立山黒部貫光無軌条電車の3.7㎞のみとなった。どちらも本格的な鉄道を敷くには資金が掛かりすぎ、国立公園内では排気ガスを出したくないという事情で導入されたものだ。
1968年東京池袋・六又ロータリー
ポールを下げたトロリーバス  
 戦後には大都市でも、路面電車よりも建設資金が少なくて済むという理由から、トロリーバスが走っていたところがある。東京では明治通り沿いに、品川〜池袋〜亀戸間で運行されていた。たしか池袋を起点に運行系統が分かれていたと記憶している。池袋六又ロータリー付近に明治通りと山手貨物線の交叉する踏切があったため、電圧の違いから架線が張れず、ディーゼルエンジンで走行する区間があったのだ。渋谷方面のトロリーバスにはエンジンはなく、浅草方面のトロリーバスは踏切を通過する際ポールを下げ、渡りきったところでポールを架線に戻す作業を行っていた。運転台脇には、ディーゼルエンジンを収めた大きなドームがあった様に記憶している。


<ガイドウェイバス>

バスそのものだが…軌道の中を
走っている         
 名古屋ゆとりーとラインの車両は、まさにバスそのものである。専用軌道を走る際には、バスの車輪脇から小さなガイド車輪が現れて、ガイド用レールに沿って走る。だからハンドル操作はいらない。多くの鉄道ファンはこのシステムを見ても「萌えない」だろうが、鉄道の乗り尽くしを目指す者にとっては、実に物珍しく楽しい旅となる。なお、大曽根・小幡緑地間の都市部が専用軌道区間であり、その先の高蔵寺までの郊外区間はガイド車輪を引き込み、県道を普通の路線バスとして走る。
小さなガイド車輪が付いている

 マイカー王国の名古屋が生んだ、渋滞のない奇抜で画期的な鉄道といえる。正式名はガイドウェイバス志段味線というから、運行会社としてはバスだと考えているのだろうが、法律上は鉄道扱いという特殊なケースである。


<スカイレール>

 ところでロープウェイには rail がないので、鉄道とは言わず索道という。そのロープウェイに瓜二つの鉄道がある。広島のスカイレールサービスだ。

JR瀬野駅を降りると、急峻な崖に
何やら不思議なものが…    
 広島は周囲を山に囲まれた都会である。広島市の郊外、山陽本線の瀬野駅から山腹・山頂に掛けてお洒落な住宅街が広がっているが、そこにあるのがスカイレールである。
 瀬野といえば、瀬野八と呼ばれる山陽本線最大の難所・急勾配区間がある区間として有名だ。八本松までの区間を、現在は高性能な電車が軽快に行き来しているが、長大な貨物列車は今でも、補機を編成の後ろに付けて、プシュプル運転が行われている。それくらいの土地柄だから、山腹に広がる住宅地に行くのは容易ではない。
 広島にはアストラムラインと呼ばれる新交通システムもあるが、こちらは車輪がゴムタイヤだから急坂に強い。広島には登山できる鉄道が必要なのだ。

見た目はロープウェイのゴンドラ
そのもの みどり中央駅にて  
 さてこのスカイレール、瀬野駅に隣接したみどり口駅を出るといきなり急勾配を登り始める。途中に一駅を挟み、終点みどり中央駅まで1.3㎞。標高差160㍍で最大勾配は263‰もある。それだけに展望は抜群で、特にみどり中央駅から下る時がスリリングで面白い。眼下に住宅街と瀬野駅までモノレールのような軌道が続き、この鉄道の全貌が見渡せる。ちなみに車両そのものは自走式ではなく、駅間は軌道内に収められたワイヤーロープで駆動し、駅構内はリニアモーターだというから、ケーブルカーのような、モノレールのような、ロープウェイのような、時にリニアモーターカーのような、他に類を見ない新感覚の鉄道と言える。
眼下に広がる住宅街を囲い込む
ように瀬野駅まで下っていく 

(2019/9/10記)