今日から7月だというのに冷たい小糠雨が降る仙台駅4番線ホーム。そこに静かに滑り込んできた列車は、ふつうの新型電車となんら変わるところはなかった。しかし屋根にはパンタグラフが付いていない。最新型のハイブリッドトレインだ。
パンタグラフのない「電車」 |
ハイブリッドトレインHB-E210系は、全く音も立てず滑らかに走り出した。その感覚は電車そのものだが、しばらくするとお馴染みのディーゼルエンジンが唸り出し、ぐいぐいと速度を増していく。このあたりは自動車のハイブリッドカーと同じ感覚だ。しかし自動車と違って、鉄道は一定速度に達すると動力を切っても惰性で走り続けることができる。これを惰行というが、その間ディーゼルエンジンはアイドリングすらしないので、走行音だけが響く電車の静寂に戻り、なかなか快適な乗り心地だ。
仙石東北ラインは塩釜までは東北本線を走り、その先で仙石線に乗り入れ、宮城県第二の都市石巻までを短時間で結ぶ、この5月に誕生したばかりの災害復興路線である。東北本線も仙石線も共に電化されているのに、それを結ぶ仙石東北ラインがハイブリッドを採用したのにはもちろん訳がある。交流電化された東北本線と直流電化の仙石線とを、そのまま繋げることはできない。長い間仙石線は孤立していたのである。そこで、東北本線と仙石線が併走する松島海岸付近に非電化の渡り線を新たに造り、そこを通過させるために、最新のディーゼルカーを導入したということだ。
ここを通過するのを一目見ようと多くの人が運転台後ろの特等席に集まってきた。最近は女性の鉄道ファンも大分多くなった。ビデオ撮影する人や写真撮影する人など、皆思い思いに楽しんでいる。私は心に焼き付けるように、じっと運転台の向こうを眺め続ける。列車は速度を落として下り線から一旦上り線に移り、更に分岐して仙石線に近づいていく。東北本線を離れた所で一旦停止する。松島海岸・石巻間の仙石線は単線なので、高城町からやってくるあおば通行普通電車の通過を待つ。信号が青に変わって、仙石線への転線が完了する。渡り線を過ぎればすぐのところに高城町がある。
2013年に訪れた時はここが終点で、その先陸前小野までが震災による不通区間だった。この5月に完全復旧した。復旧にあたっては、津波の影響を受けにくい松島湾内の海岸線沿いは盛り土をして海面よりも高い所を走り、太平洋とそのまま繋がって津波に晒されやすい仙台湾に面した野蒜付近は、ルートそのものを高台に移すという大工事をしたのである。盛り土区間は奥松島がよりよく見渡せる景勝区間となったはずだが、本日はあいにくの雨模様で、あたりは出来の悪い水墨画の世界だ。海岸から離れて、丘陵地帯に入ると真新しい野蒜駅があった。駅周辺は造成だけが終わった未成の町で、今後多くの人が戻ってくるのを期待するばかりだ。そこを越えると、陸前小野までは長い高架区間となる。ここもガランとしている。特別快速列車は仙台からの途中、塩釜・高城町・矢本の3駅だけに停まって、あっという間にサイボーグ達が出迎える石巻に着いた。
009・003・001 が出迎える石巻 |
復旧した石巻線・別の道を歩む気仙沼線
復旧した女川駅 |
石巻から女川までの石巻線16.8㎞もこの5月に復旧している。ここで従来のディーゼルカーに乗り換える。雨は止みそうになく景色は期待できない。石巻を出るとすぐに旧北上川を渡り、更に進むとまるで湖のような万石浦を右に見つつ、トンネルを抜けれと終点の女川に着いてしまった。真新しいホームと駅舎、新しく山を削って造成された高台の区画。綺麗だけれど、生活感の乏しい風景なのは、この土地に戻って来た人が少ないからだろう。しかし、鉄道という生活基盤が復元され、石巻を通して仙台との繋がりも密になったのだから、今後の発展に期待したところだ。
気仙沼線0㌔ポスト 前谷地駅にて |
仙石線や石巻線と異なり、気仙沼線の将来は微妙だ。前谷地・気仙沼間72.8㎞のうち、鉄道が走っているのは柳津までのわずか17.5㎞に過ぎない。その先はBRT(Bus Rapid Transit)が気仙沼までを結んでいる。前谷地を出た列車(と言っても1両編成だが)は、三つ四つの無人駅に停車した後、素晴らしく立派な鉄橋で大河を渡る。北上川である。この地点で北上川は旧北上川と分かれて進路を東に変え、太平洋に直接流れていく。一方の旧北上川は先程通ってきた石巻に向かうのである。東北地方を代表する大河であるだけに、気仙沼線の鉄橋は実に堂々としている。そこを1両編成のディーゼルカーがトコトコと渡っていく。渡りきるとすぐ終点の柳津に着いた。
草に覆われた線路 |
ここからはバスに乗り換えるのだが、このBRTは4日前の6月27日から前谷地を起点とするようになった。微妙だというのはまさにこのことで、おそらくJR東日本は将来、前谷地・柳津の列車運行を取りやめる積もりなのだろう。
専用道入口に設置され た信号機。 気仙沼駅にて |
BRTが接近すると感知 中のサインが表示され る。この先BRTが走行 していなければ、信号 は青に変わる。 |
保存が決まった防災庁舎 |
さて、あの痛々しい姿の防災庁舎は、かつては多くの人々が暮らした志津川地区にあるが、周辺は現在急ピッチに復興工事が進んでいた。その一画にある「南三陸さんさん商店街」は出来て3年ほど経つ仮設商店街だ。現在32軒の事業者が店を営んでいるという。そこに併設されるようにBRTの志津川駅があって、何人かの人々が乗り降りした。地域の拠点であることがよくわかる。
破壊された橋梁の脇を通る |
単線区間でバスが交換する。 |
ユニバーサルデザイン例。 鉄道とBRTが一体化している。 |
(2015/7/1乗車)
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