2017年7月1日土曜日

北海道の産業遺産①


冬の救世主キマロキ

 北海道の鉄道が輝いていた頃を偲べる博物館がふたつある。
 その一つめは名寄駅から徒歩20分ほどの小高い丘にある北国博物館だ。その見どころはキマロキと呼ばれる重厚長大な除雪のための蒸気機関で、宗谷本線の車窓からも眺めることができる。


 先頭から順に、9600型蒸気機関車(かんしゃ)・ックレー車・ータリー車・D51型蒸気機関車()。更に写真の編成は、最後尾に除雪にあたる監督員や作業補助員が添乗する緩急車(車掌車)が連結された全長75㍍の堂々としたものだ。
 鉄道の除雪と言えばラッセル車がなじみ深いが、この編成には連結されていない。そもそも雪深い鉄路をラッセル車なしにどうやって蒸気機関車が前進できるのか、私は長い間疑問に思っていた。
 もちろん北海道では数多くのラッセル車が活躍していた。ただ極寒の北海道ではラッセル車だけでは太刀打ちできない事態がやって来る、ということをこの博物館にやって来て知った。
 ラッセルによって確かに線路上の雪は取り除くことが出来る。ところが繰り返し線路脇に押しのけているうちに、やがて雪の壁が出来上がり、力では押しのけられない時がやってくる。ラッセル車が身動きできない時がやってくるのだ。そこに救世主として現れるのがキマロキというわけだ。キマロキの要はマックレー車とロータリー車のペアである。

 マックレー車とは、かき寄せ式雪かき車のこと。線路脇の雪の壁を崩す役割がある。カナダ人マックレーが考案したものを国鉄苗穂工場が製作した。進行方向に向けて「ハの字」型に羽根が開く構造となっており、うずたかく溜まった雪を再び線路上にかき寄せる働きを持つ。車室の下に大きなタンクが見えるが、ここに圧縮空気をためてそれを動力として羽根の開閉を行ったものと思われる。自走能力がないために、先頭の機関車で牽引した。

 その後ろに控えるのは赤い羽根が特徴的なロータリー車である。大きな羽根で雪を遠くまで吹き飛ばす。マックレー車が幅広く掻き集めた雪を効率良く飛ばすことができた。ロータリー車の後ろには炭水車が連結されている。というのも、ロータリーは蒸気機関で回転しているからである。しかし、自走能力はない。そのため後ろから蒸気機関車に押して貰う必要があった。こうして長大なキマロキ編成が誕生した。

 まだ道路が完備されていない時代、鉄道は1年を通して人と物資を安全に運ぶことの出来る唯一の交通機関だった。極寒の北海道にあっては、人がいる限り、鉄道が長期にわたって不通になることは許されなかった。鉄道は生命線。だからキマロキは最強の救世主であり、人々を守る鉄道員の誇りでもあった。

 鉄道車両の野外展示の多くは、長い間の風雪に痛めつけられ、見るも無惨に錆び朽ち果てているものが多い。しかし名寄のキマロキは保存会の人々によって定期的に塗装され、冬には雪囲いされて守られてきたため、とても美しい状態で展示されている。訪れた日もちょうど2年に1度の塗装作業の真っ最中だった。頭の下がる思いがした。
(2017/6/28訪問)
*キマロキは廃線となった旧名寄本線上に展示されている。

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