白馬三山と道祖神 |
以前にも記したように、大糸線車窓の最大の問題は電線が絶えず邪魔することだ。残念ながらこの一枚にもしっかり映っている。日本が観光立国を標榜するなら、電線の地中化は避けて通れないだろう。美しい仁科三湖も、車窓からカメラを向けると必ず電線が写り込んでしまう。一つ救われるのは、車窓を楽しむ我々の目には、あまり電線が見えないことである。心のフィルターは、大自然の美しさに目を奪われて、醜い人工物は取り除いてくれるようだ。夢中で写した写真を後から楽しみに見ると随分ガッカリするが。
余談になるが、どうして信濃大町と富山を結ぶ観光列車を運行しないのだろう。翡翠で有名な姫川にちなんで、私はネフライト・エクスプレスと勝手に名付けて、その運行を空想している。ネフライトとは翡翠のことだ。
立山黒部アルペンルートは国内屈指の人気ルートだが、マイカー族には途中で引き返すか、あるいは自動車回送サービスを利用するか悩ましいところだ。仮に富山(立山)・信濃大町間に別ルートの観光資源があれば、車を駐車場に停めて、ぐるっと一周することが可能となる。鉄道好きなら誰もが知っているルートがある。大糸線の北半分がそれで、大町からは珠玉の仁科三湖、後立山連峰の険峻な峰々、白馬三山を眺めた後は急流姫川の渓谷美が続く。
特に姫川は両岸に山塊が迫り、古来塩の道と呼ばれる交通の要衝でありながら、道の確保に難儀した場所だ。今も国道148号線はスノーシェッドと呼ばれる落雪・落石・落ち葉や風水害から守る覆いに包まれて、とても姫川の景観を楽しむことなど出来ないが、考えようによってはスリリングな国道ともいえる。対岸の山塊を大糸線が走っている。糸魚川・静岡構造線と呼ばれる地質学上珍しい地形だからこそ、自然災害も多く、同時に景観も優れているのだ。今JR西日本は、収益性に悪さから廃線にしたがっている区間である。
廃線は実にもったいない。今回私がJR西日本に支払った南小谷・糸魚川間の運賃は、わずか680円。1時間ほどのところを、小振りのディーゼルカーが1両編成で7往復するに過ぎない。これでは採算もとれないだろう。起死回生の秘策はあるのか。
一つある、と私は思う。それも始めはお金を掛けずに。
えちごトキめき鉄道に大人気観光列車「雪月花」がある。スイスの登山鉄道を彷彿とさせる真っ赤なボディーは、天井付近まで視界が開け、食事を楽しみながら走る列車で、糸魚川まで運行されている。なかなか予約の取れない列車だが、実は土曜と休日のみの運行なのだ。これを試験的に平日だけ運行してみればよい。富山・市振間はあいの風とやま鉄道、糸魚川まではえちごトキめき鉄道、南小谷まではJR西日本、信濃大町まではJR東日本が担当する。時刻表も考えてあるので紹介すると…
7時30分富山5番線発車。7時55分魚津で宇奈月温泉方面からの客が乗ってきたところで朝食サービスが始まる。メニューは、日本海御前または白エビ海鮮サラダの洋定食からのチョイス。次第に大きくなっていく立山連峰を眺めながらの一時だ。途中親不知子不知の伝説を聞きながら8時46分、糸魚川2番線到着。ここで折り返し49分、大糸線に入る。ネフライト・エクスプレスの名前の由来となった翡翠やフォッサマグナの説明を受けながら姫川の景観を堪能する1時間だ。南小谷からはJR東日本が担当。ここからは白馬三山や仁科三湖を愛でながらのティータイム。10時39分信濃大町1番線に到着。
信濃大町に車を停めて、すでにアルペンルートを楽しんだ観光客は、ここから家路に向かう。富山に車を停めた場合は、ここからアルペンルートを楽しみつつ富山に向かうことになる。
一方早朝に首都圏や名古屋圏を車で出発した場合は、そろそろ大町に着いている頃だろう。ネフライト・エクスプレスの信濃大町出発は11時16分である。11時42分白馬を出発したところでランチタイム。メニューは、信州蕎麦会席または安曇野の山葵を利かせた飛騨牛ステーキランチ。ドリンクは安曇野ワインか日本酒大雪渓を始めとしてソフトドリンクも。長時間の運転、ご苦労様。糸魚川13時19分着。食後のティータイムを楽しみながら14時36分富山駅4番線ホームに到着。
いかがだろう。車で移動する観光客に受けると思うのだが。4社合同というところが難しいかもしれないが、どこも損をしないはずだ。儲かるとわかればすぐ飛びつくのがJR東日本。資金力があるので、特別車両を作ってしまうかも知れない。商売下手な(と私は思うのだが)JR西日本も新幹線客目当てに、糸魚川からの区間乗車をあてこんだツアー列車を作ってしまうかも知れない。ただいずれにせよ、車社会と食文化を取り入れた豪華列車がポイントだろう。片道通行が原則のアルペンルートでは、多くの観光客が鉄道ではなく観光バスで立山か信濃大町まで行き、快走されてきたバスで反対側から抜けていってしまう。鉄道愛好家には、絶景の大糸線をいかしきれていないことが悔しくてしょうがないのだ。
(2022/6/29乗車)
0 件のコメント:
コメントを投稿