問1)アンパンマン、ゲゲゲの鬼太郎、忍者ハットリくん、ドラえもん、サイボーグ009に共通することを答えよ。
漫画の主人公の描かれたラッピング列車が全国各地で活躍している。ということで答えは漫画列車である。町興しの一環であったり、ローカル鉄道の活性化のためであったりと目的は様々だが、いずれも著名な漫画家に縁とゆかりのある土地で乗ることができる。それほど漫画に親しんでいない私には、乗り尽くしの旅の途中の予期せぬ出会いであったが、郷土の誉れを背負って走る列車には大変親しみを感じることができた。
今回はそんな漫画列車が登場する話である。それでは次の問題だ。こちらは少し難しいかもしれない。
問2)それぞれどの路線で走っているか。線名を答えよ。
解答はこのブログのどこかに示すことにして、話を先に進めよう。
散居村を行く城端線
珍しく「大人の休日倶楽部」会員限定パス(東日本・北陸)利用期間中に休みが取れた。旅行客閑散期に設定されている超割引パスなのだが、気軽に有給休暇がとれない我が身にとっては、いつも悔しい思いをしていた。降って湧いたようなこのチャンス、「今ここで行くしかない」と思いつつ、「はて、どこへ行こうか」ということで、来年3月に北陸新幹線が金沢まで開業すれば激変するであろう富山を訪ねることにした。
新幹線の開業によってまた並行在来線がJRから切り離される。今回は北陸本線の直江津・金沢間が第3セクター化され、県が有力出資者のために新潟・富山・石川に3つの鉄道会社が誕生する。JR限定の青春18切符は使えなくなり、この割引パスだってどうなるかわからない。今回は超割引パスが使える最後のチャンスかもしれないのだ。
休日初日の朝、上越新幹線で越後湯沢に行き、ほくほく線経由のはくたか2号で高岡に着いたのは10時27分であった。東京からは3時間半の旅だ。随分と近くなったものだが、鉄道が飛行機と戦えるギリギリのラインであることに変わりはなく、JRが北陸新幹線開業を急ぐ理由もわからなくはない。開業後は1時間短縮されることになり、航空機から鉄道に人が戻ってくると考えられている。しかし一方で味わいのある在来線がまた一つ無くなってしまう。車窓ファンにとってはとても残念でならない。
さて、今日最初に乗るのは城端線である。ホームの外れに車庫があり、たくさんのカラフルな気動車が停まっている。そのうちホームにやって来たのは青地に漫画が描かれたキハ40で、正面の貫通ドアに描かれていたのは忍者ハットリくんだった。高岡は藤子不二雄ゆかりの土地である。
城端線は高岡から城端まで、全長29.9kmの単線非電化のローカル線だ。沿線に砺波市があり、チューリップ畑が有名である。列車は高岡を出発するとすぐに北陸本線から離れて、民家の軒先を進んでいく。その先、列車は神社の境内の脇を通り、明らかに家庭菜園と思われる猫の額のような畑と民家の前を通り過ぎる。この風景との距離感がローカル線の楽しみの一つだ。しばらく行くと新幹線新高岡駅の建設現場を通過する。現在城端線の新駅も建設中だ。
この地方の屋根瓦は黒光りしていて、釉薬をかけてから焼かれたものが多い。また落雪を防ぐために瓦に取り付けられた雪止めは、東京なら一段のところ、三段になっている。雪国だから当然だろうが、かと言って越後のように床が嵩上げされているわけではない。


油田という珍しい名前の駅に着いた。「あぶらでん」と読む。はたしてこんなところから石油が出るのだろうか。かつて秋田や新潟に油田があったと聞いたことはあるが。
沿線最大の駅は砺波である。日本各地で見る運送用トラック「TONAMI」がここにも停まっていた。たしか本社はこの地方だったはずだ。
世界遺産を前にしながら、そのまま高岡に引き返す者などいる筈もない。相変わらずアホなことをやっているなあと思いつつ、終着駅らしさを求めて駅の周囲を散策する。駅の外れまで来ると、車止めの先に今降りたばかりのキハ40がポツンと停まっている。こののんびりとした雰囲気がたまらない。城端線を制覇した記念に祝杯でも挙げたい気分だが、あいにく駅には売店もコンビニもない。付近には店もまばらで、お酒を扱っていそうな店は一切なかった。少しもの足りない思いを抱きながら、高岡の駅で購入した鱒ずしを食べながら、列車の出発を待った。
万葉線の由来、そして今
高岡は越中国の国府・国分寺があった由緒正しき歴史の町である。『万葉集』に数多くの歌を残した大伴家持が国司としてこの地に赴任したことから、高岡は『万葉集』ゆかりの地となり、ここを走る鉄道にも愛称として「万葉線」と名付けられた路線がある。

万葉線は歴史を感じさせる名前とは裏腹に、軽量軌道交通(Light Rail Transit=LRT)という新しい概念を採り入れた鉄道としても有名だ。JRローカル線が苦戦する中で、地方の中小都市では軽快な電車が活躍し始めている。
そこに現れたのが、真っ赤なボディーのMLRV1000系、愛称アイトラムだ。真っ白な新しい停留所との取り合わせが何とも日本離れしている。まるでヨーロッパの都市にでも来たような気になる。それもそのはずで、この車両はドイツのボンバルディア社から技術提供を受けて製造されたものなのだ。
LRTは、都市交通として利用しやすい路面電車の良さを活かす一方で、時代遅れとなっていた路面電車車両の欠点を克服した画期的な鉄道だ。おもにヨーロッパの中核都市を中心に発達した技術である。驚くほどの低床構造で、しかもフルフラット化されている。この特殊車両をLRV(Light Rail Vehicle)という。これなら路上から乗車するのも簡単だ。
LRVの車輪はボディーに覆われてあまりよく見えない。2両編成に見えるが、つなぎ目の幌の下の部分には台車があって、二つの車体が同じ台車に乗る連接構造になっているはずなのだが、残念ながら外からはよくわからない注。乗車すると座席の下に大きなタイヤハウスがあって、そこに車輪が潜んでいることは想像がつくが、車軸はどうなっているのだろうと疑問は膨らむばかりだ。想像される車輪の大きさからすると、車軸はどうしても床よりも上になければならない。もしも床の下に車軸が通っているなら、余程車輪の直径は短いに違いないが、そのような小さな車輪で、素晴らしい加速と乗り心地が実現できるはずがない。まさに魔法のような車両なのだ。詳しい構造はとても文章では書き表せないが、日本人が思うほどには新幹線技術が世界で高く評価されていないように、路面電車分野でも日本は大きく遅れをとってしまった。誠に残念なことである。
ステーションビル1階にある高岡駅を出ると、軌道はすぐに単線となって広いメインストリートに入っていく。片側2車線の堂々とした道路の中央に単線の路面電車軌道が走っている。お互い邪魔することなく、ここでは自動車と路面電車が完璧に共存しているのだ。富山県は各世帯あたりの自動車保有率で全国一位二位を争うマイカー依存度の高い土地柄だから、この共存のあり方は重要なポイントである。どうして複線ではなく単線なのかは、おそらくローカルかどうかの問題ではなく、邪魔せず邪魔されずに定時運行するためのものなのだろう。

ヨーロッパのLRVは、繁華街のある市街では路面電車として、また郊外になるとそのまま通常の鉄道として、どちらにも対応可能な優れものとして開発された。従って郊外に専用軌道のある万葉線はまさにLRVが活躍する条件にぴったりの路線なのである。しかも六渡寺から終点の越の潟までは、法律上も路面電車のような軌道ではなく、歴とした鉄道として認可されている。
ただここで疑問が生じる。万葉線には旧型の路面電車も走っている。果たして鉄道法上、路面電車が軌道ではなく鉄道を走っても問題は生じないのだろうか。どうでもいいことだけれど。

進行左側前方に、美しい巨大な斜張橋が見えてくる。新湊大橋である。富山新港の入り口に架かる自動車専用橋であり、万葉線は越の潟で行き止まりとなる。その先は県営の渡し船である越の潟フェリーが対岸の堀岡と結んでいる。万葉線の全列車と全フェリーは、わずか3分の接続時間で連絡し、対岸まで移動可能となっている。
越の潟の停留所ではたくさんの人が電車を待っていた。みなそれぞれカメラを抱えている。なにごとだろうと思ったが、こちらはこの先次の訪問先が待っているので先を急がなくてはならない。アイトラムの写真を撮ったら、同じ電車で引き返そうと思ったが、ドアは開いているものの誰も乗ろうとはしない。まだ乗ってはいけないのかなとためらううちに、電車はドアを閉めて出発してしまった。「しまった! このあとの列車接続に響くなあ」と思っていると、大勢の人を率いているバスガイドさんが、「皆さん。次にお待ちかねの電車が参りますよぉ」と言う。ここでようやく思い当たった。

注)後で調べてわかったことだが、幌の下に台車はなかった。ふつうは安定性を確保するために1車体に2軸4輪のボギー台車が2つ付いているものだが、アイトラムでは1車体に1つの台車しか付いていない。従って2両編成に見えるが、連接して初めて1両分となるような台車構造であることがわかる。
帯に短く襷に長い絶景路線
ドラえもん号を楽しんだために、高岡駅まで戻ってしまうと氷見線には間に合いそうもない。幸いなことに万葉線と氷見線とは高岡から能町まではほぼ並行に走っているので、万葉線の新能町から氷見線の能町まで歩くことにした。地図で見ると、能町駅は側線が何本もあるかなり広い駅である。付近は工業地帯なので、貨物の仕分けをする駅なのだろう。踏切を渡り、しばらく歩くと能町駅はあった。無人駅だった。

誰もいないホームに佇むと遠くを万葉線の旧型路面電車が行くのが見えた。あのガーター橋の下、雑草が生えてレールの見えなくなった所を氷見線は走っている。しばらくすると、高岡方面から氷見行のガラガラのディーゼルカーがやって来た。鋼鉄製、重量級のキハ47、忍者ハットリくん号である。あらためてLRTという概念の先進性が納得できる。私の大好きな重量級の鉄道は、中小都市の地域密着形鉄道にはなり得ないことを改めて思い知らされた。このガランとした能町駅の空間に、爽やかだけれどどこか侘びしい秋の風が吹き抜けた。
氷見行はしばらく工業地帯を走り、それが尽きると富山湾が開けてくる。右手後方に先程訪れた越の潟の新湊大橋が見えた。午後の日差しが傾いて来る。この先に以前から行ってみたかった雨晴の駅がある。源義経が東北に逃亡する際、雨が晴れるのを待ったという伝説にちなむ土地だが、有名なのは富山湾越しに見える立山連峰である。空が澄み渡る冬の晴れ間にしか見えず、年に数回とも言われている。雨男の自分だから、いくら雨晴らしでも天気は良くないだろうとは思いつつ、写真で見た絶景の場所にはどうしても行ってみたかった。
列車は雨晴に近づくにつれて荒磯の脇を通っていく。海が荒れたらすぐに運休になりそうな風光明媚なところである。先程のLRTのことなどすっかり忘れて、やはり列車の旅はいいもんだと思うところが現金なものである。立山連峰は見えないけれど、海に浮かぶ女岩の向こうに能登半島が広がっている。
雨晴の駅周辺は、キャンプ場や旅館があって、シーズンには多くの人たちで賑わうようだ。しかし列車で訪れる人は少ないという。何と言っても、富山県はマイカー所有率が全国トップクラスなのだから仕方ない。
雨晴からは海岸から遠ざかって、ほんのわずかで終点氷見に着く。氷見海岸に行ってみたい気もするが、折り返しの列車に乗らないと今日の計画が全うできなくなる。改札を出て駅舎の写真を1枚撮っただけで、再び ホームの戻ることにする。
先程見たばかりの景色をもう一度眺めながら,再び能町まで戻ってきた。能町から高岡までが未乗区間なので、しっかり見ようと思う。途中の越中中川からは大量の高校生が乗ってきた。県立高岡高校の生徒達だ。たった一駅区間だけ満員列車となって、あっという間に高岡駅1番ホームに滑り込んだ。

(2014/10/1乗車)
クイズの答え)アンパンマン:土讃線、ゲゲゲの鬼太郎:境港線、サイボーグ009:石巻線
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