2015年8月4日火曜日

福井の鉄道 恐竜王国篇

Kingdom of the Dinosaurs FUKUI
えちぜん鉄道勝山行き車窓左手
5㎞遠方に、巨大な卵の形をし
た福井県立恐竜博物館がある。

 恐竜に特別な興味はないけれど、福井の鉄道には前から乗ってみたかった。そこで乗りに行ってみたら、行く先々で恐竜が待っていた。なんと福井駅のベンチには恐竜が座っていたりする。昔映画で観た(こちらは怪獣だが)モスラの卵のような巨大な建造物まである。福井の情熱は、同地が日本最大の恐竜化石の産出量を誇るところからくるらしい。日本の恐竜化石の8割は福井県で見つかるという。フクイサウルスという草食恐竜や映画『ジュラシックパーク』にも登場する肉食恐竜のラプトルの仲間、フクイラプトルなどと命名された怖ろしい恐竜も発見された。そんな王国の鉄道を紹介する。

えちぜん鉄道勝山永平寺線

 古くからの鉄道愛好家であれば京福電鉄越前本線と言った方がなじみがあるかもしれない。京福電鉄の名前は、今では京都嵐山や比叡山のケーブルカーなどでしか見ることができないが、出町柳と鞍馬や八瀬を結ぶ叡山電鉄もかつては京福電鉄だった。そもそも京都の鉄道会社と思われがちだが、その名前の通り京都と福井に鉄道を持つ会社だったのである。それが今では京都の片隅(いずれも名観光地だが)で細々と中小私鉄として営んでいるのは、この会社が悲劇に見舞われているからである。なかでも今回訪れた勝山永平寺線(当時の越前本線)で2000年と2001年のわずか半年間に二度起こった正面衝突事故では、国土交通省から運行停止命令を受けるという鉄道会社にとっては屈辱的な結果となってしまった。その結果、経営の危機となった京福電鉄は福井地区と叡山地区の路線を手放すことにしたのである。
 地域の足を確保するために、福井県では第三セクター方式の鉄道会社として存続させることを決め、福井市や勝山市が出資するえちぜん鉄道が2003年に開業した。ということで、えちぜん鉄道は古くて新しい鉄道である。どことなく都会的な外観の電車が、地域の足を支えている。京福電鉄時代には叶えられなかった車両の更新や保安施設の整備に相当資金が必要だったのだろう、運賃は決して安くはない。福井・勝山間のわずか27.8㌔で770円という運賃はJRの約1.5倍。このあとで乗車した福井・三国港間も同額だったため、この日の合計は3,080円の支出となった。
 お金のことなど無粋な話はすべきではないが、もしも今日が土日だったらフリー切符がなんと900円で買えたのである。これはいくら何でも安い! また切符売り場には夏休み親子企画として、大人一人と子ども一人のフリー切符が1,200円で販売されていた。「親子フリー切符は大人だけでも使えますか」と尋ねると、気の毒そうな顔をされて「使えません」という返答が返ってきた。それはそうだろう、乗りたくてやって来た客に割り引く必要はないし、二度と乗らない客に過剰なサービスは不要だ。ということで、図らずも今日の私は地域振興のために役立った筈である。
 電車は小高い山に囲まれた九頭竜川沿いの田園地帯をトコトコと進んでいく。途中永平寺口ではバスを利用して永平寺へ向かう人がかなり下車した。もともとはここから永平寺まで線路が敷かれていたが、これも衝突事故の後に廃線となってしまった。
 
 終点の勝山駅は国の登録有形文化財に指定されている由緒正しき駅である。そもそもこの鉄道が施設されたのは1914年のことで、当時は越前電気鉄道と呼ばれた。この時に造られた駅舎が今でも利用されている。勝山市の鉄道玄関口として大切に保存・修復がされていて、さながら生きた博物館のようだ。おしゃれなコーヒーショップも営業されていて、ここから恐竜博物館へ向かう人達の休み処にもなっているのだろう。
 勝山駅前
さすがに当時の車両は残っていないが、開業6年後に導入された電気機関車テキ6形が、構内の片隅に大切に保存されている。まるでちっぽけな豆電車のような形だが、この電気機関車の導入によって大幅に輸送力が向上したのだという。貨物輸送専用の電気機関車として活躍し、昭和55年までの60年間、地域の織物製品や木材を運び続けたのだそうだ。えちぜん鉄道から勝山市に寄贈されたもので、産業遺産として大切に保管されているのである。

越美北線(九頭竜湖線)


 一旦福井に戻って、次はJR線だ。岐阜県の美濃太田から北濃までを結ぶ国鉄越美南線が第3セクター化し長良川鉄道となった今でも、越美北線は旧国鉄を引き継いだJR西日本のローカル線として生き残っている。並行して走るえちぜん鉄道とは異なり、ここで使用されている車両は、通常よりも車長が2割ほど短いローカル線専用のワンマンディーゼルカーだ。このキハ120系はJR西日本の標準的なローカル車両である。

スタフは鉄道の通行手形。
信号機が発達した現在では
とても珍しい存在である。
改装された立派な福井駅の片隅の切り欠きホームから出発する。全線単線非電化。事実上越美南線がなくなり、北線だけとなってしまった越美線は九頭竜湖線という愛称で地域の足としての役割を担っている。福井平野をしばらく走り、山が両側から迫ってくると戦国の武将朝倉氏で有名な一乗谷に着く。国の特別史跡となっている一乗谷朝倉氏遺跡までは駅から1㎞半ほどだが、無人駅に史跡の地図が掲示してあるだけで、ここから歩く観光客は少なそうだ。里山の谷間をしばらく進めば、越前大野である。ここは列車交換できる最後の駅だ。
 この先九頭竜湖までの間に、信号機は一切なくなる。その代わりとして通行手形とも言えるスタフが手渡され、終点までは7駅あるものの、スタフを持つ1車両だけが往復できるという1日5往復の閑散路線となる。柿ヶ島の手前で九頭竜川を渡り、水力発電所があるような山の深い谷川となり、その先越美北線はトンネルが連続して、それほど景観を楽しめるわけではない。将来、長良鉄道越美南線と結ばれることは決してないだろうが、仮に結ばれたにしろ、あたりの深い山の様子から見て、トンネルだらけの路線となったはずである。いくら自分が鉄道好きだからといって、夏休み期間の旅行シーズンにも関わらず、これほどまでに乗客がまばらなこの路線を更に延長せよなどとは決して言えない。
終点の九頭竜湖駅からダムまでは直線距離でも3㎞ほどあって、残念ながら駅前から湖を眺めることは出来なかった。そのかわりここでも出迎えてくれるのは恐竜たちだった。マイカーで訪れる観光客の人々が、電動で動く恐竜たちを見て興じていた。


えちぜん鉄道三国芦原線

 越美北線を往復し、福井駅に戻ってくる頃には午後の日差しもだいぶ傾いて来た。次に目指すは三国港である。三国と言えばカニのブランド越前ガニのメッカだ。一匹一匹ごとに黄色いタグがつけられた越前ガニだが、なかでも三国港で水揚げされたものは皇室にも献上される最高峰の高級ガニで、三国出身の知人に言わせると、地元民も口にすることがないのだそうだ。地元民が口にするのは雌のセイコガニだそうだが、近年こちらの方も人気が急上昇している。いずれにせよ冬の味覚だから今回は食べられないものの、それはかえって良かったかもしれない。なまじシーズンにやって来たとしても、高級過ぎて鉄道のひとり旅のついでに食べるような御品ではない。
 ただしせっかく夕暮れ時に三国港まで行こうというのだから、早めの夕食に海鮮丼のようなものが食べたいなあと思いつつ、三国芦原線に乗車する。午前中に乗車した勝山永平寺線と同じデザインだが、こちらは利用者が多いのだろう、2両編成の電車である。福井口で勝山永平寺線と分かれると、えちぜん鉄道の車両基地を左に眺めつつ北陸線をまたぎ、福井鉄道との乗り換え駅田原町に着く。帰りはここから福井鉄道に乗り換えて福井駅に行く予定である。
 芦原温泉の最寄り駅、あわら湯のまち駅までは広い田園地帯をほぼ真っ直ぐに北上する。駅周辺にはホテルや旅館がたくさん集まっていて、美人の駅員さんが改札口でにこやかに迎えるこの鉄道の主要駅なのだが、芦原温泉駅を名乗らないのは、ここから4㌔も離れた所にJRの同名駅があるからだ。ただしJRで訪れる人はバスに乗り換えてここまでやって来なければならない。あくまでも本家はこちらである。
 さて、ここから終点の三国港は近い。進路を90度変え真西に向かい、九頭竜川の河口で日本海にぶつかる所に著名な港がある。私が訪れた時は夕方ということもあって、市場に人けはなく、ひっそりと静まりかえっていた。こうして、えちぜん鉄道全線を乗り終えることができたわけだが、祝杯をあげるべく下調べしていた店は臨時休業だった。夏の期間だけは昼ばかりでなく夕方も開店しているとネットには記されていたのに、残念である。これだけ閑散としているのだから、やはり臨時休業にしてしまったのだろう。少し歩き回って別の店を見つけ、そこで祝杯をあげた。

再び福井駅に戻って

福井駅に戻る頃にはすっかり暗くなっていた。現在駅前は改良工事中で、一足先に出来上がっているのが恐竜コーナーである。暗闇の中でライトアップされた恐竜が、鳴き声をあげながら口を開け、首を動かしている。道行く人達が興味深げに集まってくる。福井は本気で恐竜王国になろうとしているようだ。
(2015/8/4乗車)

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