そのドイツ旅行の2週間前に訪れた福井鉄道も、近年フクラムの愛称で親しまれる新型車両を51年ぶりに導入して話題となっている。地下鉄区間こそないものの、福井鉄道は Stadtbahn として見た場合、きわめて多くの共通点を持っている。富山の LRT とはひと味もふた味も違う、福井鉄道の魅力を紹介する。
越前武生駅 沿線随一の本格的 な駅舎とホームを備えている。 右は現在主力の一つ770形。左は かつての花形急行用200形。 |
福井鉄道福武線は、越前武生と福井市を結ぶ全長21.4㎞の鉄道である。武生といえばかつて越前国の国府があった歴史ある町で、『源氏物語』の作者紫式部も受領の父親に連れられてここで少女時代を過ごしたことでも有名な土地だ。昭和20年に福武電気鉄道と鯖浦電気鉄道が合併して福井鉄道となったことから、本社は現在でも武生にある。つまり、武生から福井市に進出した鉄道なのである。一方の福井は一乗谷の朝倉氏が滅亡した後、柴田勝家が領有して以来の土地柄であり、幕末に俊才の誉れ高い松平春嶽を輩出したとはいえ、歴史では武生の後塵を拝するところと言える。
福井駅前から市役所前に進入する 急行越前武生行。この後一旦通り 過ぎてからスイッチバックして、 こちら側の線路に転線し、乗客を 乗せてから、左手前方に向かって 進んでいく。 |
それが影響しているわけでもないだろうが、面白いことに越前武生から赤十字前・木田四ツ辻間にある鉄軌道分界点までの18.1㎞は鉄道区間、その先の福井市街地区間3.3㎞は軌道区間つまり路面電車扱いとなっている。ここがまさに日本の Stadtbahn というべきところなのである。都市間を結ぶ近郊型の鉄道と市街地に適した路面電車との融合である。
路面電車区間は市役所前で福井駅前方面と田原町方面に分岐するが、その分岐の仕方が若奇妙なのだ。常識的に考えると、福井駅前から武生を結び、途中から田原町方面に支線で分岐させるほうが運行しやすい筈だ。ところがここでは、そうなっていない。福井駅前を出た電車は市役所前で一旦停車し、一旦通り過ぎてスイッチバックしてから武生に向かうのである。いったいどうしてこんな面倒な配線にしたのだろうか。それは市役所前が福井駅前以上に重要であり、スイッチバックさせても経由する必要があったからだろう。電停レベルのホームでありながら、地下道で通じている位の主要駅である。
FUKURAMはFUKUIとTRAMの 合成語。福井駅前にて。左後方 に改築中のJR福井駅が見える。 将来はここまで延長される。 |
それに対して福井駅前は簡素なものだ。道幅が狭いこともあって、市役所前で分岐するとすぐに単線になってしまう。現在、JR福井駅が大改修中で、その完成にあわせて福井駅前も乗り換えやすいように移動することになっている。おそらく新駅には2本の電車が停まれるようになるだろうから、田原町でのえちぜん鉄道への乗り入れ工事が進んでいることも考え合わせると、今後はもっと賑やかな駅前となることだろう。そしてそこで大活躍するのはFUKURAMことF1000形超低床車であろう。現在2編成が活躍している。新しい車両は街並みにすっかり溶け込んでいる。3両編成で、全ての車両に台車が付いているので、間に吊られる形の付随車両を挟めばもっと定員が増えるはずだが、そこまでの需要はなかったのだろう。
普通の電車が道路との併用軌道を走 る。これが人気の秘密。 市役所前にて。 |
ところで福井鉄道が多くの人を惹きつけたのは、FUKURAM 同様に編成の長い本格的な電車が、51年も前から路面電車区間を走っていたからである。
昭和35年に福武線の急行車両として登場した200形は、2両編成ながら本格的な電車列車であり、当時流行だった湘南電車と同じ風貌を身につけた格好良い電車であるばかりでなく、車輪に直接モーターを取り付けるのではなく、振動が伝わりにくいカルダン式という新しい技術で造られた電車であったことも人気の秘訣だった。しかも、小田急のロマンスカーにも採用された連接式車体といって、車体と車体の連結部に台車を配するという最先端の電車だった。この方式は、車体と車体が一体化しているので、振動が抑えられて乗り心地がよいという特徴がある。
連接車両の台車。コイルに挟まれ たオイルダンパが揺れを更に低減 させる。地方私鉄とは思えない最 先端の技術が導入されていた。 |
鉄道部門は赤字を抱えて苦戦している福井鉄道だが、常に時代の最先端を導入するという点において、実に腹の据わった鉄道会社だということができよう。51年も走り続けて、もはや引退目前の200形だ。今回、福井に来てこの電車の走る姿に出会えたのは誠に幸福だった。
現在数多く在籍する路面電車型の2両連結車両は、名古屋鉄道からのお下がりで、廃止となった岐阜市内線から回ってきたものだ。出入り口部分にステップがついた770形は、200形と同じように連接車である。製造後20年程度の比較的新しく状態の良い車両といえる。
福井鉄道に限らず、豪雪地帯のこの地方では、単線区間から複線区間になる所、特に交換施設のある駅の両側の分岐器には、スノーシェッドが設置されている。分岐器は雪に弱いからだが、出来るだけ除雪に人の手を掛けたくないという、地方鉄道固有の事情もあるのだろう。JR北海道の閑散地域ではよく見掛けるが、本州では珍しいのではないだろうか。
LRTが普及する北陸地方にあっても、その先見性という点で異彩を放つ福井鉄道。営業成績が良くない中で、奮闘する姿を見ていると、ぜひ応援したくなる。
(2015/8/5 乗車)
【注】ドイツから帰国後にまとめたため、その経験が反映された内容となっている。
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