大鰐温泉 2010年8月撮影 気がついてからあわててシャッタ ーを切ったので、弘南鉄道の文字 が少し読みづらい。クリックする と写真が拡大。 |
前の晩に上野を発ち、寝台特急「あけぼの」の個室の中で、鳥海山に昇る日の出の時からずうっと車窓を楽しんでいた。碇ヶ関を越え、ようやく津軽までやって来たなと思いながら、弘前の奥座敷と呼ばれる大鰐温泉に列車が到着すると、まず目に飛び込んできたのが、少し痛んだ跨線橋に記された弘南鉄道の文字だった。日本中の鉄道に一度は乗りたいと思っていたので、そのうちここにも立ち寄りたいと考えながら、今回は終点までこの個室の旅を楽しむことが目的だったと、改めて再訪を期したのだった。
大鰐温泉駅 2010年8月撮影 |
しかしチャンスは訪れた。廃線が決定した江差線に乗るために北海道を往復することにして、帰路弘前に立ち寄る機会ができたからだ。冬の津軽を旅し、黒石の駅に到着すれば、青森の鉄道は全て乗り尽くすことにもなる。なかなか魅力的な冬の旅となりそうであった。
大鰐温泉から中央弘前へ
7031と7032の2両編成 |
弘南鉄道には弘南線と大鰐線の2路線がある。国鉄から引き継いだ黒石線は残念ながら6年前に廃止されている。二つの路線は繋がっておらず、JR弘前駅に隣接する弘南線弘前駅と大鰐線中央弘前とは直線距離で1㎞ほど離れているので、どう回るかは思案のしどころだが、ここはやはり大鰐温泉から始めることにした。
7039と7040の2両編成 |
ED22 |
大鰐温泉から中央弘前まではわずか13.9キロ、並行するJR奥羽本線とは異なり地域密着型の地方私鉄なので、14もの駅を擁している。およそ1キロに一駅の割合で設置されていることになる。この先いったいどのような人が乗ってくるのだろう。
黒いラッセル |
大鰐温泉を囲む山々が尽きて、電車はリンゴ畑の中を走る。宿河原、鯖石、石川プール前という味のある駅名ごとに停まるが、一向に客は乗ってこない。石川を過ぎたところで盛り土区間となり、そのままJRを跨いで、義塾高校前に着く。甲子園にも出場経験のある東奥義塾高校の最寄駅である。ここで高校生が大勢乗車してきた。まだ冬休み期間中なので全員部活帰りと見える。やはり地方ローカル線は高校生に支えられているのである。にわかに車内が活気づく。
津軽大沢駅 交換列車は東急でお馴染みの 赤い帯 |
津軽大沢では列車交換があった。ふつう鉄道は左側通行だが、地方のワンマン運転ではしばしばホームの右側につけることがある。これは運転台が左側にあるため、この方がドアの開閉確認がしやすいからだ。理に叶ってはいるが、何となく妙な気分がする。
一駅停まるごとに生徒たちが降りていく。当然と言えば当然だが、地元の生徒だけでスポーツ強豪校にはなれないだろうから、この子たちは楽しみで部活をやっているタイプなのかなと、とりとめのないことを考える。その後は、聖愛中高前、弘前学院大前と学校名のオンパレードだ。まさに学生が支える鉄道だから、登下校時以外は閑散としているのも当たり前だろう。
中央弘前駅 弘前中央ではない。この名前には 何かいわれがあるのだろうか。弘 前城からもJR弘前駅からも距離が あり、確かに中央なのかもしれな いが、観光客に便利な駅とはいい がたい。 |
こみせの町、黒石につゆ焼きそばを食べに行く
弘前駅 都会の私鉄と何ら変わらない。 |
こうなったら弘前での夕食は諦めよう、黒石の郷土料理が食べたい!
今黒石で人気なのは、何と汁に浸かった焼きそばなのだそうだ。B級グルメかあ。まあ、付き合ってみるかということで、弘南線の乗客となった。
夕方が近いこともあって、綺麗に改装された弘前駅には多くの人が電車を待っていた。それでも年々乗客が減り、ここも高校生頼みなのだという。大鰐線と同じ車両が使われているのだが、乗客が多いので地方ローカル線に乗った気がしない。しばらく乗車しているうちに、景色から家々が消えてゆき、田圃の真ん中を通るようになって、ようやくローカル線らしくなってきた。 黒石までは16.8キロ。12の駅があるので、駅間は大鰐線に比べて開いている。
よくポスターなどで見るこの路線は岩木山をバックにしたものが多い。雪模様の今日は勿論白一色の世界だ。田んぼアートという駅だけを通過して、30分ほどで終点黒石に着いた。
黒石市には日本の道百選に選ばれたこみせ通りがある。こみせとは、越後高田では雁木と呼ばれている日本版アーケードのことだ。通りに面した各家が、軒を道まで伸ばして、通行人を雪や日差しから守った施設のことをいう。実に合理的な工夫で、通行人の便を図って造った施設だが、玄関前の雪掻きをする必要もなく、そこで暮らす人にも便利だったに違いない。
こみせ通り |
こみせを堪能した後は、いよいよ「つゆ焼きそば」である。お勧めの地酒を尋ねると、先程訪れた造り酒屋の銘柄とは違うものを紹介された。地元の人は亀吉を呑むという。冷やのまま口に含むうちに、次第にいい気分になってくる。つゆ焼きそばも、香ばしい汁麺という感じだ。いいものに出逢った。全国全線乗り尽くしの旅の途中であるが、乗車だけを目的に終着駅ですぐに折り返さなくて良かったとつくづく思う。
底冷えのする夜の黒石の町を歩きながら、再びこの町に来ることはないかもしれないと思い、だからこそこの風景を覚えておきたいという、いつもの感情が湧いてきた。
人通りの絶えた夜の道を駅に急ぐ。駅に隣接したスーパーマーケットには何人かの地元の人たちが買い物をしていた。棚には茨木産や長野産の野菜や果物が並べられている。売られているものは東京と変らない。買っている人たちの表情も似たようなものだ。流通が発達した今では、全国から送られてくる同じような物に囲まれて、この土地の人も普段の私も同じように生活をしている。
車止め(黒石駅) |
黒石駅にて |
(2014/1/6乗車)