2014年8月26日火曜日

北海道乗り尽くしの旅④

修行のような

 未乗区間はあと2つ、最後に残ったのは札幌の市電と地下鉄だ。地下鉄は3路線あるので正確には4路線なのだが、この際一括りで考える。正直言って乗りたくて乗るのとはちょっと違う。たいへんバカバカしい話だが、完乗のために乗らなくてはならないという、<悲壮感>あふれる話であり、まさに修行のようなものなのだ。

 まず、地下鉄から片づけよう。
 札幌の地下鉄は、南北線・東西線・東豊線の3路線が大通を乗換駅として6方面に広がっている。これが厄介で実に攻略しづらい。行って帰ってこなくてはならないから、結局すべて往復する必要がある。しかもほとんどが真っ暗なトンネルの中だ。乗る前からうんざりする。

南北線(さっぽろ→麻生-14.3km→真駒内→自衛隊前→すすきの)

緑豊かな真駒内
駅の前方にはシェルターが続く
 南北線はオリンピック開催時に開業した札幌で最初の地下鉄だ。その夏、真新しい地下鉄に乗って真駒内まで行ったことがある。
 その年の夏は、涼しいはずの北海道がとても暑く、ほとんどの鉄道には冷房がなかったので、気動車や蒸気機関車中心の旅は随分しんどかった。そのような中、札幌地下鉄の各車両には風鈴が吊り下げられていて、涼を呼んでいるのが爽やかで印象的だった。あのころの緑色の車両は既にみな廃車となったが、冷房が装備されていないのは今も同じだ。でも風鈴は吊されていない。大都市札幌の混雑状態から見れば、仕方のないことだろう。
 
自衛隊前にて
まず麻生(あさぶ)に行く。これで南北線はあっさりと制覇。一旦改札を出て地上まで階段を昇る。ランドマークになるようなものは
なく、店と住宅とバス通りのある平凡な風景である。すぐに戻って真駒内行に乗車する。大通公園を通過し40年ぶりに真駒内へ行く。未乗区間ではないが、札幌地下鉄唯一の地上区間だから、車窓が楽しめるので引き続き乗車する。地上区間の特徴は、冬の積雪から守るために高架部分がすべてシェルターになっていることだ。ここからは乗り心地が悪くなる。高架の構造がかなり柔構造になっているため、揺れが増幅するものと見える。タイヤ走行の札幌地下鉄は、やはり鉄道というよりは道路とバスのようだ。とにかくよく揺れる。

札幌市交通局路面電車(すすきの→ロープウェイ入口→西四丁目8.4㎞)・・残り2つ

すすきの停留所
 すすきのに戻って、市電に乗り換える。
 市電にはかつて乗ったことがあるような気もするが、記憶がはっきりとしない。観光客にとっては藻岩山へ行く際に利用する位しかないので、登ったことのない自分には利用した理由は見当たらないのである。この際だからついでに藻岩山にも登っておこう。少しはモチベーションを上げようという作戦だ。
 札幌の市電は始点と終点とがわずか400mしか離れていない。近い将来、かつてそうだったように、再び結ばれるという。そうなれば環状運転が可能となり、利便性が増すだろう。しかも低床式の新型車両も導入した。今なにかと話題の路面電車なのだ。
眼下に札幌の街が広がる
 すすきのから乗車し藻岩山に向かう。乗りながら、改めてこれには乗ったことがあるなと感じた。しかし、時期や目的は相変わらず不明である。すすきのにある東急インに泊まった際に違いない。記憶の奥底で繋がってきたが、目的が思い出せない。印象は希薄だ。一瞬だが、新型車両がすれ違う。いかにも路面電車である旧型とは著しい隔たりを感じる。オシャレで軽快。市民には朗報だろう。

藻岩山ロープウェイ・もーりすカー

もーりすカーは
ケーブルの一種
 ロープウェイ入口で下車。降りてすぐのところに無料シャトルバスの停留所がある。これは嬉しい。15分間隔で送迎がある。この先ロープウェイも15分間隔、もーりすカー(ケーブル式昇降機)も15分間隔。微妙な待ち時間があるので、往復には2時間ほどかかり、陽もだいぶ傾いてきた。ロープウェイ入口から西4丁目まで市電に乗って、市電制覇。
市電
 考えても見れば今日は朝から休みなく乗り通しで、昼食もとってなかった。歩いてすぐの大通公園でとうきびでも食べようと思う。甘辛のしょうゆだれを選んだのは、以前食べた時にそれほど甘くておいしいなとは思わなかったからだが、やはりこれくらいの味付けがあった方が食べやすいトウモロコシだった。腹の足しにはなるから、まあいっか。

東西線(大通→宮の沢-20.1㎞→新さっぽろ)

 地下鉄乗車を再開する。次に目指すは東西線の宮の沢である。3路線の中で最も長い東西線の走破がもっとも憂鬱だった。5時を過ぎ、ちょうど帰宅ラッシュが始まったところである。目の前に座ったのは、札幌の名門私立の中学生3人。なかなかしつけもよろしい感じで、スマホでゲームをする高校生とは明らかに違う。駅に停まるごとに別れを告げて行儀よく降りて行った。
 琴似を越えて終点は宮の沢。ここでも改札口を出て、動く歩道付きの長い地下道を通って、ようやく長いエスカレーターにたどり着き、地上に出る。そこは大きなビルの一階に設けられたバスターミナルだった。人々がここからバスに乗り継いでいく。札幌は大きな街なのだ。通勤通学も楽じゃない。
 また引き返して、新さっぽろ行に乗る。ガラガラだった車内も大通公園からは混雑してきた。それにしても、なかなか終点には着かない。飽きてきた。新さっぽろから大通に戻るのが苦痛になってきた。修行だと自分に言い聞かせても、我慢の限界である。片道だけなら我慢もする。往復はうんざりだ。その時、新さっぽろからはJRで札幌に戻り、そこから最後の東豊線に乗ればいいことに気付く。外は暗くても景色は見える。早速このアイディアに飛びついた。

JR(新さっぽろ→札幌)

 新さっぽろはすべての特急が停まる主要な駅である。ちょうど新千歳空港発旭川行の快速がやってきた。札幌からは特急スーパーカムイ37号になる列車なので、3扉車ではなく、2扉の特急電車車両である。途中駅には停まらない。混んではいたがデッキで過ごす。夜のとばりが降り始めた札幌の町を猛スピードで突っ走る。車端のため揺れもひどい。ふと保線状態は大丈夫かと頭をよぎる。無事札幌駅に到着する。

東豊線(さっぽろ→栄町-13.6km→福住→さっぽろ)・・ついに最後の1路線

福住駅にて
 いよいよラストの東豊線。札幌で一番新しい地下鉄だ。ただ東豊線の以後に東西・南北線車両は更新されたために、車体のデザインは同じでも車内のサインシステムは東豊線の方が古い。まずは栄町へ向かう。改札を出ると今日訪れた終点の駅では一番地味な感じの十字路が目の前にあった。ここからは丘珠空港が近いらしい。すぐに別の入り口から改札口へ向かい、福住行に乗る。ひどく疲れていた。ただ目で追っているのは駅名と路線図、「あとなん駅で終わる!」それだけを考えていた。
 そしてついに完乗の時は来た。電車が福住に到着し、重たい頭で特に感慨もないままにふらふらと改札口を出る。地上に続く通路を歩きながら、何となく色とりどりの壁を眺め、ふとその刺激の中でこれは何だろうと貼られたポスターのひとつに目が留まった。この地上に続く地下道はポスターや旗で飾られていたのである。それを見て、ここが日ハムファイターズとコンサドーレ札幌の本拠地、札幌ドームの最寄駅であることを初めて知った。試合のある日はファンやサポーターの熱気でいっぱいになるはずの連絡通路には、選手たちの写真がたくさん飾られている。エスカレーターに乗るとイトーヨーカドーの入り口があり、大きなショウウィンドウにはコンサドーレのユニフォーム、Tシャツやグッズが所狭しと展示され売られている。福住は祝祭の街であった。フィニッシュを迎えるのにこんなにふさわしい駅はない。色とりどりの飾りを眺めながら、じわじわと湧き起こる達成感に浸ることができた。
(2014/8/27乗車)


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