札幌をあとに
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札幌JRタワー |
北海道を離れる時が来た。居酒屋に立ち寄り、日本最北端の酒・増毛の国稀と、日本最東端の酒・根室の北の勝で祝杯を挙げた後、青森行急行はまなすに乗るために札幌駅に向かう。北の玄関口札幌駅は見違えるように立派な駅になった。JR北海道の主要駅は近年立て替えが進んで意匠を凝らしたものが多く、利用者の目を楽しませてくれる。函館、旭川、岩見沢、そして今回訪れた帯広など、どの駅も個性的な街の顔となっている。札幌の顔は道都にふさわしい堂々とした風格と新しさとを兼ね備えている。ここから北海道の各地へ向けて列車が出発するだけでなく、遠く大阪や上野、青森とを結んでいるかと思うと、駅という存在の重みが改めて感じられてくる。
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急行はまなす |
それにしても北海道を乗り尽くすまでには40年かかった。今回は15回目の北海道訪問となる。旅をマイカーに替えた30代から40代にかけての17年間は、私にとっては鉄道旅行空白時代であった。その間に全国の赤字ローカル線は次々と廃止になり、かつて乗車した天北線・興浜北線・興浜南線・渚滑線・標津線は今はもうない。JR北海道は当時から見ればスカスカの路線網しか擁さないが、それでも全線走破には時間がかかるものだ。
これから乗ろうとする急行はまなすはおそらく来年の今頃はないだろう。北斗星もカシオペアもトワイライトエクスプレスも、みんな姿を消そうとしている。この日本から定期夜行寝台列車がなくなる日は近い。乗り尽くした北海道を離れるにあたって、その最後を寝台列車で締めくくることは、この旅を計画した当初から念頭にあった。朝目覚めた時には、北海道を離れている。悪くない帰り方だ。
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DD51 |
指定された寝台は1号車1番下段。一月前の10時ちょうどに予約したので一番だった。デッキに出ると、前方の窓には牽引する青いDD51が見える。北斗星塗装のディーゼル機関車である。北斗星とは違ってゆっくり走るので重連ではない。
再び車内に戻って廊下に組み込まれた座席を下ろし、後ろに過ぎ去っていく札幌の街を眺める。余市のウイスキー竹鶴を口に含みながら、車輪がレールを刻む音を楽しむ。機関車が牽引する客車列車は、モーター音やエンジン音がしないだけに、タタタタンという音だけが心地よく響いてくる。寝台列車は遮音性にも優れているから尚更なのである。この雰囲気ともお別れだ。列車の揺れに合わせて酔いも回ってきた。寝台に潜り込もう、今晩は7時間睡眠できそうだ。
青森に近づく車内アナウンスで目が覚めた。周りの人たちはもう下り支度を済ませている。途中一度も目を覚ますことなく朝を迎えた。函館でスイッチバックしているので、今1号車は最後尾になっている筈である。早速カメラ片手に行ってみると、デッキには誰もいなかった。急行はまなすは津軽半島の稲作地帯を疾走している。どんどん景色が後ろに飛び去って行く。北海道は遠くなったが、まだ余韻の中を列車は走っている。そんな旅が私は好きだ。
(2014/8/27〜28乗車)